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【2024/05/19 12:43 】

リアイベ始まるまでが暇なんだよね。
という事で過去話を再び。

奈緒とアオトが卒業する前の話。


 「…………は、い?」
 たっぷり数秒、時を止めてから、柚木は言った。どことなく呆れたような響きがあるのは気のせいか。
 「アオト、今何て言いました?」
 どちらかというと聞きたくない種類の話だったかな、と思いつつ、柚木は聞き直す。
 攻略途中だったロールプレイング・ゲームのコントローラーを、横から奈緒が掻っ攫っていく――帰宅後、奈緒の自室に集まってテレビゲームで遊んでいる最中だった。
 ちなみにこの部屋は、テレビにゲーム機本体、ソフトは勿論のこと、マウンテンバイク、分厚いハードカバー、漫画、DVDプレイヤー、パソコン、プラモデル、カー○ルおじさん、コンガ、など……持ち主の性格に相応しく、様々なものが雑然と混沌と置かれている。
 「若いのに耳でも遠くなったか? 卒業したら私立探偵になるって言ったんだ」
 その部屋に奇跡的に存在していた勉強机の上に座るアオトは、平然とそう言った。
 正直行儀の悪い行為だが、如何せん持ち主がそれを使うことがないのでお構い無しだ。
 「えっと。ちょっと待ってください、探偵の意味を思い出しますから」
 探偵って言うのは……英国紳士だったり、ぼさぼさ頭に下駄姿だったり、天才高校生だったり、体は子供だったり…
 「臨床犯罪学者だったり、やたら建築物に詳しかったり、お嬢様な助手がいたり、導いた推理が必ずハズレだったり――の探偵ですか?」
 柚木に思いつく限りの「探偵」を挙げられ、暫く視線を宙に彷徨わせてから、アオトは頷く。
 「……うん、まあ……そうだな」
 後半、アオトは知らない「探偵」だったが、とりあえず間違っているというわけでは無い。
 尤も、本来の探偵は、そこまで殺人事件ばかりに関わっているというものでは無いけれども。
 「アオト、お前がわかんなかった探偵、俺が全部名前挙げてやろうか?」
 ゲームに熱中しつつも会話は聞いていたのか、からかい混じりに奈緒が口を挟む。
 「いや、いい」
 別段悔しいわけではなかったが、あっさりアオトは断る。
 思えば、柚木は常日頃奈緒の部屋から本を借りているので――奈緒がそれらを知っていたとしてもおかしくは無い。
 「あの、どうしてですか? アオト、家のほうは――」
 不思議そうに柚木はアオトを見上げ、尋ねる。
 「……まだ猶予をくれと言っておいた。人脈は、作れる限り作っておいたほうがいいだろう?」
 あまり吹聴して回ることはないが、アオトはちょっとした家のちょっとした四代目だ。
 周囲はそれを望んでいるし、当人がそれに反発していると言うようなこともない。
 柚木は当然、卒業したら家業を継ぐものかと思っていた。
 「爺さんは健在だし……」
 「面倒だしなあ、俺まだ遊びてーし」
 攻略本を見ながら、けらけらと奈緒は笑う。この男、人の話を聞いてないようで聞いている。
 時々――と言うか寧ろほとんど――聞いているようで聞いてないのだから、アレなのだが。
 「自動的に就職先? …就職先で良いの? 決まってるのは良いけど、別に不満はねーし。でも入学パンフレットに、卒業生の就職先がまさかここなんて、書けないしなー」
 「……そういう理由じゃないが、まあ、見聞を広めておくのも良いかと思ってな」
 人脈なら学生時代に授業にも出ずに散々築いてたじゃないですか……とは、思っていても柚木は口に出せない。
 尤も柚木一人が反対したところで、この二人はお構いなしだろうが。
 「奈緒もなんですか?」
 「助手、と言う形で一応な。ゴーストがらみの事件も耳に入りやすそうだし、時間は好きに使えるし……」
 「だけど、仕事が入らないと一文無しなんじゃないですか、私立探偵って?」
 「あぁ、そっちは家賃収入があるから大丈夫。食っていく分くらいは、探偵の仕事がなくても」
 家賃収入……どんな現役高校生だろうと、密かに思わないでは無い。
 「いつだったかな、爺さんと奈緒と三木とで賭けをして、一人勝ちしたんでな。事務所所有のアパートを一軒、もらった」
 どれだけの金額勝ったのかは、勿論アオトは教えてはくれない。
 とりあえず、この二人は能力者でなくても「ちょっと変わった高校生」なんだろうと、柚木は思う。
 ただ、柚木自身もそのあたりについて慣れてきているのが、自分でも不安を感じずにはいられない。
 如月家の傍流とは言え、できるだけ自分は普通の学生でいたい。…能力者として覚醒してしまった時点で、少し普通からは外れてしまったけれど。
 「賭けって。……抵触してません?」
 「抵触どころか真っ黒じゃないのか?」
 笑いながらそんなことを言う。…奈緒に負けず劣らず、アオトも悪戯好きだ。しかも大抵性質が悪い方向で。
 「まぁ、この稼業だしなぁ……あ、終わった」
 奈緒の呟きに、柚木はテレビ画面に目を向ける――そこには、暗転した舞台と、中央に倒れ伏す主人公。
 「ごめんな……ゲームオーバー☆」
 てへ、と笑ってみせる奈緒。硬直する柚木。テレビゲームはさっぱりなアオト。
 「あ…あ……ああああ! せ、セーブは! セーブはしたんですかっ!?」
 「え、セーブ画面って何処にあったの」
 「あったじゃないですか! って言うかメニュー画面見なかったんですか!?」
 「うん、見なかった」
「すいません殴っていいですか!?」
 「やめ、俺体力ないんだからさー」
 柚木に胸倉をつかまれながら、さらりと奈緒は言ってみせる。
 実際、能力者としての力の大半を攻撃力を高める為に使用している奈緒は、柚木よりも体力は無い。
 それでも経験で大きく劣ってしまう柚木には、それが悔しくて仕方がないのだが。
 「……いいです。今更どうにもなりませんし」
 うなだれながら、柚木は奈緒の服の襟から手を離す。この二人に振り回されるのは、もう慣れっこだ。
 「それに、奈緒にクリアしてもらっても、意味がないですからねー」
 「じゃあ、柚木が見てなかったあのボスの本当の正体だけでも教えてやろうか?」
 「嫌がらせですかそれ。……もう」
 落ち込みやすいが浮上も早いのが、柚木の取り柄。笑いながら手早くゲーム機を片付けて、元ある場所にしまった。
 「前向きで立派だぞ、柚木。ご褒美にコーンチョコをあげよう」
 「いえあの、俺、それで喜ぶほど子供じゃないんですけど」
 そう言いつつ、柚木はアオトから駄菓子を受け取る。好物なので、貰うに越したことは無い。
 とりあえずやることもなくなったし、さてどうしようかと三人が思ったその時、控えめにドアがノックされた。
 「どうぞ」
 部屋の主でもないアオトが、平然と応える。
 その声に扉を開けて現れたのは、壮年の男性。名前を三木と言い、三人の教育係でもある。彼はおっとりと笑うと、言った。
 「三人ともこちらでしたか。夕食の準備が出来ておりますよ」
 「あ、はいっ」
 「あーい」
 扉の間から、食欲をそそる香りが流れてくる。今夜の夕食はなんだったろうか?
 「三木、頼んでおいた資料は集まったか?」
 「はい、夕食後にお部屋にお届けいたします」
 「そうか、悪いな」
 「出来れば俺は、廃墟っぽいところがいいんだけどー」
 「生憎、そのような物件は見つけることが出来ませんでした」
 柚木は首を傾げる。資料、廃墟、物件。
 「……あ、事務所を、借りるんですか?」
 アオトは頷く。そのための資料を、三木に集めさせていたんだ、と言った。
 「まあ、最初はその形になるかな…。最初から買い上げてしまうのは、流石に経済的じゃないし」
 「だから廃墟なら安いんだって」
 「奈緒さん、それでは余分な改修費がかかってしまいますので」
 「奈緒、お前のその趣味を否定はしないが、もうちょっと色々他に考えろ」
 「なんだよお前、いきなりよう」
 三人は何事か相談しながら、先に出て行ってしまう。出遅れた柚木は、部屋を出る前に、ゆっくりと室内を見回した。
 奈緒とアオトはこの春、銀誓館学園を卒業する。
 銀誓館学園、第一期生の卒業。これから彼らは、また、柚木の知らないところで活躍を続けるのだろう。
 柚木が卒業する頃には、先輩能力者と肩を並べて戦えるようになるくらいにはなっているだろうか。
 なれるといいな――と思いつつ、柚木は口を開いた。口元には生温い笑み。
 「……この部屋、やっぱり俺が掃除しなくちゃダメかな……」
 とりあえず、当面はそういう地味なことから始めようと思う、柚木だった。
 
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CATEGORY[挿話的なもの。]
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【2010/06/27 08:44 】
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